
岡村昭和とはいつからの知り合いなんだろう。これといって正面からぶつかり合う会話をして来たわけでもないのに25年以上のつき合いだ。彼が目前に現れる前兆があった。服部秀次郎というやくざな小説家と奥成達という詩人である。とかく物書きは観念で生きているから口をひらけば意味不明なダダの世界、その仲間としてダダッ子の岡村昭和が現れた。最初は我々と同じ穴のむじなのグラフィック•デザイナーとして紹介された。それがいつの間にか絵描きに変身していた。見せられた絵は、全身をまさぐる様な手の群舞、右から左から天から地からまさぐる手手、これは岡村の奥深い性理(ショウリ)の履歴書を見せられている様に思えた。感じ方は男と女とでは大きく違うかもれないが、男が求める母への性理・・・乳房から性器への連想でポッと頬を赤らめてしまった。岡村はいったい何を言いたいのだろう・・・。それを思ったとき崇拝する先輩横尾忠則の言葉を思い出した。「ダリが何を言をうとしているかを理解しようと思ったら、そこからダリの策略にはまってしまうんだよ。」・・・なるほどあえて理解しようと思わない方が岡村昭和の輪郭がはっきり見えてくるかもしれない。それにしても言葉では表現しきれない仙人岡村昭和である。

及川正通(オイカワ マサミチ)
■1939年旧満州大連生まれ。1963年日宣美入選後デザイナーデビュー。1968年横尾忠則と共同事務所「ジ・エンドスタジオ」を設立し、天井桟敷などのポスターを手がける。1972年「平凡パンチ」に劇画を連載し注目をあびる。その後「ぴあ」の表紙を担当し、同じ表紙を長期間担当したイラストレーターとして2007年にギネス世界記録に登録される。