物質の変化を指すチキソトロピー(揺変性)という科学用語がある。
触れると変わる─ゼリー状のゲルに触れると、流動性のゾルに変わり、放置すると再びゲルにもどる揺変現象。
手と手の触れ合い、手とヒトとの触れ合いは、揺変現象のように、絶えざる「変容」をくり返す。
そうした接触(コンタクト)と変容のイメージをとらえて描きつづけてきたのが「手の時代」の作品たちである。
手の「変容」を描く過程を通じて、アンドロジナス(両性具有)の世界の息づかいに触れ、境界を越えて一歩踏みだすことができたと思っている。
「われわれは、宇宙のコンセントにつながっているのだ」とライフサイエンティスト=ライアル・ワトソンは言っている。
触れ合い、つながるとき、手は宇宙から受け取った電流を放電するかのように、さまざまな表情を見せる。
そうした多面的な手の表情が「手の時代」の作品たちのモチーフとなっている。